シェルターにおけるワクチン接種

シェルターにおけるワクチン接種の最大の目的

感染性疾患を撲滅することではなく、多くの動物達が出入りする過密状態で、様々な感染性疾患の拡大を防ぎ、リスクの高い患者とまだ感染症に罹患していない動物の健康を維持すること。

※シェルターに来る動物は経歴が分からないことがほとんどなため、どの動物もワクチン未接種とみなします。

コアワクチンとノンコアワクチン

コアワクチン
すべての犬や猫に接種するように勧められているワクチンのこと。
以下のような点に基づいて判断されています。

  1. 感染の結果、非常に重篤な症状になる(例:猫汎白血球減少症)。
  2. 人および動物も罹患する人畜共通感染症(ズーノーシス)で、人の健康を害する潜在的な危険性があるもの(例:狂犬病)
  3. その感染症が広く流行していて、容易に伝播する結果、多くの動物に被害が拡がる危険があるもの(例:猫ヘルペスウイルス感染症、猫カリシウイルス感染症)

ノンコアワクチン
その感染症に対する危険性が予想される場合や、動物の生活環境で感染性因子に暴露される危険性が想定される場合に推奨されます。

例:猫白血病ウイルス感染症、猫エイズウイルス感染症など

シェルターで接種するワクチン

シェルターにおける猫のワクチンは、通常3種混合を用い、防御の発現が早く、母親からの移行抗体があっても効果の認められる弱毒生ワクチンが推奨されます。

3種は以下のコアワクチンになります。
猫ヘルペスウイルス 猫カリシウイルス 猫汎白血球減少症

弱毒生ワクチンと不活化ワクチンの違い

弱毒生ワクチン
対象となるウイルスや細菌の毒力を弱めたもの。
生体内でウイルスや細菌が増殖して免疫を誘導する。

不活化ワクチン
死滅させたウイルスや細菌、不活化した毒素を用いたもの。
免疫を誘導できる免疫原性は保持している。

弱毒生ワクチンの利点

  • ・免疫の発現が比較的速い(抗体産生まで5〜7日、ワクチンによっては数時間〜数日以内で顕著な防御)。
  • ・弱毒生ワクチンの単回投与で防御が可能。
  • ・母親からの移行抗体に干渉されにくい。
  • ・病原体の排泄や疾患の発現を防ぎ(例:パルボ)、群をより効果的に防御。

弱毒生ワクチンの欠点

  • ・自然感染と鑑別不可能な軽度の症状を発現することがある。
  • ・野外のウイルスと鑑別不能な病原体を排泄することがある。
  • ・ワクチン株のウイルスに感染して、キャリア状態になることがある。
  • ・著しく免疫抑制されている動物では、重度の疾患を引き起こすワクチンがある。
    (ストレス、栄養不良、不妊去勢手術などに関連する日常的な免疫抑制で、ワクチン誘発性の疾患が増加したという報告はない。遺伝的な免疫不全、化学療法、パルボウイルス感染症ではリスクが高くなる)
  • ・一部の弱毒生ワクチンで死亡あるいは胎児や4週齢以下の非常に幼い動物で疾患を起こすことがある。
  • ・不適切な保存方法や取り扱いで不活化することがある。

不活化ワクチンの利点

  • ・死滅したウイルスや細菌を用いているので、病原性のあるウイルスを排泄したり、妊娠あるいは非常に幼い動物でも疾患を誘導することはない。
  • ・免疫不全の動物に接種しても、比較的安全。
  • ・保存方法および取り扱いが簡単。

不活化ワクチンの欠点
いくつかありますが、シェルターでの使用を避ける最大の理由は「免疫防御の確立に、ワクチンの追加接種後、1~2週間かかる」という点です。
つまり、ワクチン未接種の動物に防御が確立するのに、約5週間かかってしまいます。

※動物の出入りの激しいシェルターでは、ワクチンで防御する前にほとんどの動物が疾患に暴露されると考えます。感染力が強く致死性の高い病気(猫汎白血球減少症など)がいつ入ってきてもおかしくない環境において、免疫獲得までに5週間もの時間をかけている余裕はありません。

ワクチンの接種時期

一般的には母親からの移行抗体がなくなる時期が生後8週齢~14週齢頃になりますので(感染危険期)、8週齢頃に1回目のワクチン接種を行い、生後12週齢頃に2回目の追加接種をします。移行抗体のレベルが高いとワクチンウイルスが中和されてしまい、効果がないことがあるためです。逆に言うと、ワクチンをしなくても移行抗体で防御されていることを意味します。ただし、実際には移行抗体の有無や抗体価を測定することは現実的ではなく、母親の免疫状態も不明な場合が多いため、初回ワクチン接種は8週齢前後で行うことが推奨されます。

母親がワクチン未接種の場合は移行抗体の影響を考慮する必要はありませんが、子猫にいつから抗体産生能力が出てくるかが問題になりますので、産生能力のある生後6週齢~8週齢頃にワクチン接種を行うことが有効です。

※いわゆる高力価の生ワクチンは、低い抗体価の移行抗体があってもそれを乗り越えて感染し、ワクチン効果を発揮するとされています。そのため4~6週齢でのワクチン接種が可能です(当シェルターではこのタイプのワクチンを使用しています)。

※生ワクチンは妊娠猫や4週齢以下の子猫への接種は避けることが基本ですが、シェルターのような多頭飼育の環境では感染のリスクが高いため、4週齢から複数回(4,8,12週齢)接種する必要があります。

当シェルターでの接種時期
1回目:

  • ・生後4週齢頃(子猫)
  • ・シェルター収容日(推定生後2ヶ月以上の子猫〜成猫の場合)

2回目:

  • ・前回接種から3〜4週間後
  • ・譲渡時期によっては、2回目以降は譲渡された先での接種をお願いしています