猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症/FPLV)について Feline panleukopenia

猫パルボウイルス感染症は、犬パルボウイルス感染症と同様、非常に死亡率の高い病気です。
ワクチン未接種で免疫のない個体への感染率はほぼ100%といわれ、とくに幼弱猫の死亡率は75~90%になるというデータもあります。

犬のパルボウイルスとは遺伝子的に近縁であり、猫は犬のパルボウイルスに感染することもあります。犬では1歳未満ではより感染しやすいといわれていますが、猫では年齢に関係なく感染のリスクが高いと言われており、下痢が認められた場合にはパルボウイルス関与の可能性も否定できません。

主な症状は嘔吐下痢ですが、消化器症状が認められるのは感染の末期で、初期は発熱や食欲不振という、その他の病気と区別のつかない一般的な症状を呈することもあります。

経口的に感染したウイルスは、咽頭・扁桃のリンパ組織で増殖し(感染0~2日)、その後血中に入ります(ウイルス血症:感染1~5日)。その後、骨髄・リンパ組織・心筋や小脳・小腸などに到達します(潜伏期間として2~14日間)。
この病気はパルボウイルスが直接的な死因となるのではなく、多くの場合は下痢による脱水、そこから起こる二次的なエンドトキシン血症により死亡すると言われています。

ウイルスの特徴

・非常に安定したウイルスで、環境中で3年間は生存し、室温以下では1年以上感染性を保持、30℃以上の外気温でも、数ヶ月以上生存すると言われています。

・一般的な消毒薬にも強い抵抗性を示し、グルタルアルデヒド系消毒薬、塩素系消毒薬が有効とされています。

感染経路

感染個体の糞便、ノミなどの媒介物、ケージ、食器、フードそして被毛にいたるまでが感染経路となりうるため、適切な消毒薬を適切な方法で使用することにより、感染拡大のリスクを減らすことが出来ますが、消毒だけで感染のリスクを排除することは非常に困難です。
作業に従事する人が媒介者となる可能性があることを念頭におき、可能であれば、感染個体を別の部屋に隔離、そこに入るスタッフも限定し、白衣やエプロン、室内履きなども、隔離部屋専用のものを用意します。感染個体に使用したタオルなどはすべて破棄し、再使用しないようにします。

診断

診断は主に糞便中のウイルス抗原を検出することによります。
感染症状と糞便中の抗原はほぼ同時に検出されますが、この感染症に罹患した個体は症状を発現する約3日前からウイルスを排出することもあるので、注意が必要です。
一見すると元気な個体の糞便のウイルス検査→陽性反応→数日後に症状発現→その頃には周囲へもウイルスが拡散・・・ということもありえます。

簡易キットによるウイルスチェックの注意点

  • ・現在使用可能なものは、犬のパルボウイルスを検出するキットである
  • ・猫においては犬ほどウイルス検出率が高くなく、陽性であるのに検査で陰性と出る可能性がある
  • ・検査において陽性反応は疾患の指標となるが、陰性でも除外できない
  • ・生ワクチン接種後3~14日目は、ウイルス抗原が検査キットに偽陽性として反映される可能性がある
  • ・ウイルス株と野外株を区別する方法は、現時点では困難
  • ・ワクチンの影響の場合は、反応が弱い場合が多い
  • ・ワクチン後であっても、強い陽性反応で、さらに疑わしい症状が認められる場合、あるいは感染している可能性が高いと考えられる場合には、信頼性が高い

シェルターや多頭飼育環境下においては、ワクチン接種後のものであっても、陽性反応が出た場合には深刻に捉え、陰性であっても油断しないことが重要となります。

感染からの防御

この病気から個体を守る唯一の方法は、ワクチンを接種(生ワクチン)することです。

生ワクチンを選択する理由

  • ・免疫獲得が早く、免疫保持期間も長い
  • ・抗体誘導力が強い
  • ・細胞性免疫も誘導する
    (移行抗体の存在する状態では、抗体が消費されるため、液性免疫だけでは不十分。細胞性免疫がある方が効果が高い)
  • ・メモリーT細胞への反応性が不活化ワクチンよりも優れている
  • ・ブースター効果も細胞性免疫の方が効果が高い

感染防御と発症防御の抗体価(犬パルボウイルス:CPVの場合)

発症防御;40~80倍  
感染防御;640倍以上

生ワクチン接種後、通常は約3日目以降に免疫力の上昇が認められ、約2週間程度で感染防御のレベルに到達します。しかし、ワクチンを無効化(ワクチンブレイク)するいくつかの要因もあるため、追加接種の必要があります。

(ワクチンを複数回接種しても、個体によっては感染防御レベルまで免疫が上昇しない場合もあるので、状況によっては注意が必要です。また幼齢期以外でもワクチンブレイクの可能性はありえます)

幼齢期においてワクチンが無効化される生体側の主な要因

(幼齢期におけるワクチネーションについて VMANEWS No.55,2008より)

  • ・高い移行抗体の存在
  • ・免疫力の未熟さ
  • ・野外ウイルスの感染で免疫抑制状態になっている
  •  

  • ・過度のストレス
  • ・薬剤(ステロイドなど)
  •  

  • ・抗ウイルス状態(感染している動物は、体内でインターフェロンが産生され、抗ウイルス状態になっている。この状態でワクチンを接種しても、ワクチンウイルスの増殖が抑制されてしまう) 
  • ・栄養不良や消化吸収不良による免疫力の低下
  • ・その他(遺伝的要因など)
世界的にもワクチンによる病原性復帰の報告はなく、また、糞便中にワクチン由来のウイルスを排泄している個体と抗体陰性猫を同居させても発症は見られない(排泄されたウイルスに病原性がない=感染性がない)ことが実験にて証明されており、ワクチンウイルスによる発症はまずないとみてもよいと思われます。

※ワクチンを接種した個体が猫パルボウイルス感染症に罹患した場合には、以下のことが考えられます。

  • ・もともと潜伏感染状態だった(ワクチンを接種することにより免疫が低下して発症)
  • ・ワクチンによる防御が確立する前に、ウイルスに暴露され、感染・発症

結論

パルボウイルス感染症のリスクを最小限にするためは、ワクチン接種と適切な衛生管理が必要であり、特に多頭飼育環境下においては、接種可能な個体にはすべてワクチンを接種することが重要。

抗体価を調べて完全に感染防御レベルであると確認できた場合を除き、ワクチン接種済みの個体であっても、疑わしい症状を呈する場合には、注意が必要である。